偶然のタイムカプセルまたは襖の下張りみたやうなもの。

今日の修理物は昭和16年に出版された高村光太郎の本『美について』。綴絲の質が惡くプツプツと千切れて頁がバラけてしまつたのを再縫製する。膠に大きくムラになつてる部分があつて開頁時の撓みを均等に分散することが出來なかつたのも故障の要因だつたみたいだ。結局この邊の素材をすべて交換して完了。裝訂を解たときに顯となつた背表紙を裏打する短册紙には三行ばかりが讀めた。奇しくも今日と同じ初夏の晴天についての記述。

−洗濯物がよく乾きますこと。
−病氣がからり癒つたやうな氣がいたします。
−ぼたんの花が今日は一段と明るうございます。