TRACK3

凪を破つて突然に打ち寄せて來た大波によつて顛覆してしまつた海賊船のデッキからはキラキラと煌く寶石類やら酒壜やらが轉げて船外へバラバラと抛り出されて行き、さうして巨濤が拔けた直後の餘波によつて未だ膨張を繰り返す海原へと落ちたそれらの物品は水の表面をザバザバと一氣に敲いた刹那に物質としての形状を失つてしまつたのだけれど、立ち昇る飛沫の中で然しその煌きはなほ消えることなく10色ばかりに分光した虹の輪となつて中空に畫き出されると波頭を渡つて四方に擴がつて行き、視界は一面に眩い光輝のヴェールで覆ひ尽くされたのだつた… 僅か5秒ばかりで一小節のタム囘しと共に收束するイントロのアタマの部分でチラと見える白晝夢。クールな出だしの後には矢鱈とファンキーな感じのオケで樂曲の全體は包まれる。脂でギトギトのフライドチキンを手攫みにして喰ふのが日課みたいなベーシストがギラギラした派手な衣裳で腰をクネクネさせながらドゥルレロラ♪と黏こいラインを指彈きしているイメージがそこには有つたりするのだけれど、殘念乍らこの作品もまた打ち込み屋さんの手に據るものなのださうだ。ところでこの樂曲では意外にも標題にある如き「ベル」の類は用ひられてをらず、肝腎な部分では何故だかスラップスティックが代りにピャアァ~ン!と鳴り響いてたりするのだけれど、自分は以前の早安組關聯では明るめの樂曲が好みだつたこともあつて「ゴ・ガール」とか「愛あら…」なんかでフューチュアされてるみたいな例のチューブラ・ベルズがキンコンカンコンと來ることをどうやら期待してた感じがあつて、つまりはそんな紋切型の想ひ込みから上手く關節を外された具合となつたわけだ。これはガッタスのデビュー曲。石-吉-紺の三頭ラインからの連想なのだらうけれど、茲に現在の體制とは別の方向に進んだ早安組のモデルの樣なものを見てしまふ誘惑を感じる -即ち、日本野球的チームプレイの禮賛となつた「マンパ…」へと進んで行つた早安組が、その時點で別の方向に旋囘して蘇つて來たかの樣な印象があつたりして、最初にプロモ畫像をみたときのインパクトは相當に強烈なものがあつた(※それ以前に「こんこんが歸つて來た!」といふ單純な事實に心底打ちのめされたといふのが自分の心情としての實態かもしれないが)。